2021/11

陰陽五行

日本の社会の中にも溶け込んでいるように見える陰陽五行という思想。何となく“中国から来た思想”であるとか、“プラス/マイナス、男/女で陰陽でしょ?”というような認識は、おそらく誰もが持っているのではないかと思います。その陰陽五行説について、もう少し詳しく見てみようと思います。

■いつ頃発生した思想か?

古代の中国(殷〜周あたり)では、万物を支配するのは「天」であって、人間社会も「天の意」によって左右されるという信仰が主流でした。ところが、周の衰退とともに、自然現象を「天の意」から切り離して、自然そのものとして捉えなおすという考え方が出てきます。その代表ともいえるのが、「陰陽」「五行」という思想。自然現象を二元論的に分類したものが「陰陽」、あらゆる物質、現象を木・火・土・金・水の5つの要素からなるとしたのが「五行説」と呼ばれているものです。

春秋・戦国の世において、後に諸子百家と呼ばれるようになる思想が生まれましたが、「陰陽」という捉え方は、それらに先立つ形で自然に現れてきたような思想であると思われます。その後さらに細かく自然現象を分ける試みの中で「五行説」が出来上がり、「陰陽」とセットになったのが「陰陽五行説」ということになります。

「陰陽」を表す図として、誰もが一度は目にしたことがあるであろう「太極図」というものがありますが、その太極図が道教のシンボルでもあることから、「老子」の「道(タオ)」の中にその発端を見出すこともできそうです。

ちなみに中国神話においては、「陰陽」を含むあらゆる文化思想を作ったのは伏羲であるとされています。


■基本的な仕組み

「陰陽」とは、万物は、対立する二つの要素から構成されているとする思想。注目したいのは、表記として「陰・陽」ではなく「陰陽」であること。つまり、対立はするものの、各々単独で存在するのではなく、表裏一体であって、不可分であるということです。おそらくこの部分を取り違えると、全く別の思想になってしまうのでしょう。

「五行説」とは、自然現象を木・火・土・金・水の5つの要素に分類し、それぞれが「相生」「相剋」という関係性の中で存在するとする説。

「相生」:木→火→土→金→水→木というように相手を強めたり生み出す関係性。木は火が燃えることに一役買い、火は燃えて土となり、土の中から金属が産出され、金に属するものは冷えて水滴を集め、水は木を育む、というような関係のことを言います。

「相剋」:相手を弱めたり打ち負かす関係性。水が火を消し(水→火)、火は金属を溶かし(火→金)、金属は木を切り倒し(金→木)、木は土から養分を奪い(木→土)、土は水の流れを堰き止める(土→水)、というような関係のことを言います。

五行を説明する時には、5元素をそれぞれ五芒星の頂点に置き、矢印によってその関係性を表す図が使用されます。




■陰陽道

この陰陽五行という思想が仏教などとともに日本に入ってくると、天文や暦など様々な学問と融合され独自に発展を遂げます。それが「陰陽道」であり、小説や映画などで有名になった「陰陽師」とは、この陰陽道に通じ、天文、暦、地理などを駆使し、吉凶占いや宮都の選定などを行っていた人たち。7世紀後半からの律令制のもとでは「陰陽寮」が設けられ、陰陽師は官職となります。

この陰陽寮を設置したのが、「天皇」という呼称を初めて使用したと言われている天武天皇で、自らも陰陽五行思想に通じていたようです。天武天皇といえば「日本書紀」「古事記」の編纂を指示したことで知られているかと思いますが、他にも藤原京(日本最初の都城)の設計や、伊勢神宮の遷宮の取り決め、三種の神器の制定などを行いました。要するに、日本文化の礎を築いた天皇であったということですね。

最近話題となっていた、“皇族の結婚”ということからも、皇室のあり方を考えさせられた人も多いのではないかと思います。天皇制について考える上でも、この天武天皇までさかのぼってみると、見えてくるものがあるように思いました。どうしてもオブラートに包んでしまいがちな話題ではありますが、わずか1500年程の歴史の中に、割と明確な答えはすでにあって、危惧されている様々なことは、実は私たち一人一人の在り方の問題であるのだなと、改めて思います。

いずれにせよ、いわゆる”日本的な”文化のはじめには、陰陽五行思想が深く関わっていて、それが日本文化を発展もさせ、また詳細は省きますが、そこから派生した不穏な思想や迷信などによって、独特の重たさを抱えることになっていった、ということも言えるのではないかと思います。


■四柱推命・算命学への応用

同じく中国で生まれた「十干・十二支(干支)」を取り入れ、それらをもとに占術としてして発達したのが「四柱推命」や「算命学」です。これらがどのように日本に伝わり発展をしていったかには諸説あるようですが、基本にあるのは「陰陽五行」の思想ということになります。

「甲乙/丙丁/戊己/庚申/壬癸」は、順に木火土金水をそれぞれ陰陽に分けたもので十干と言います。同じ木の性質の中にも大木もあれば草花もあり、大海のような水もあれば雨のような水もあるというようなこと。

「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥」の十二支も、それぞれ陰陽と五行の性質を当てはめることができ、この十干十二支の組み合わせによって、あらゆる現象を推し量るのが四柱推命や算命学です。


■日常での活用?

日常の中で、この陰陽五行を活用していくとしたら、漢方や風水などがあげられるかと思います。ただこれらは、信頼できる専門家を見つけないと難しいので、私たちが生活の中でできることは、食べ物や着る物、持ち物の性質に少し意識を向けて“バランス”ということに気をつけていくことかなと思います。大抵の問題ごとは、バランスが崩れてしまうことで起こるものだったりするので、「何かがおかしいな」と感じる時は不足や過多を見直すという視点に立ってみると、自然に流れ出したりするかもしれません。

全ての現象を二元的に捉えたり、5つの要素に分類するなんて、少々乱暴な気もしますが、何事も分類整理しながら理解していくというのはやはり有効であるようにも感じます。物質を構成する原子や何かがはっきりと見えるわけではないので、その大まかな性質をわかりやすく分類するというのは、便利な知恵でもあるのだなと思ったりします。

例えば七色の虹が、実際はそれぞれの色の間に無限の色があるように、陰陽五行というのは、その組み合わせによって森羅万象を想起させることで、無限の広がりを感じ取っていくものでもあるのだと思います。

時代によっては深刻に活用せざるを得なかったこともあるかもしれませんが、現代において活用するとしたら、あくまでも楽しみながら、一切影響を受けないという選択肢も含め、可能性のひとつとして捉えていくのが望ましいのかなと思います。決して物事を断定的に判断する材料とすることなく、振り回されることなく、逆に否定することもなく、自分なりの距離感で先人の知恵を謙虚に学ぶスタンスでいたいものです。