2021/11

易経

■易とは

「易」という文字は、トカゲの象形文字で、体の色を日に何度も変えるトカゲがいることから「変化する」という意味を持つそうです。易は「変化」を説く書であるということ。「易」を占いの種類別に分けると、命・相・卜のうち「卜」であることは「占いについて」でも触れましたが、この「卜(ぼく)」という文字は、古代において亀の甲羅を火で炙り、割れ目によって吉凶を占う際のその割れ目からできた象形文字とされています。古代中国においては、こうした亀卜(きぼく)や蓍筮(しぜい)によって神意を降ろすことで、重大事項が決定されていました。

蓍筮(しぜい)というのは、蓍(し・めどぎ)という草の茎を使った占いで、これが「易」の原型です。複数の蓍を規則に沿って取り分けていき、最終的に残った蓍の数を「ー」と「- -」で表し、その組み合わせで吉凶を占うというもの。当初は亀卜と同様、呪術信仰の中で神意を聞くという域を出なかった蓍筮ですが、人々が自然の中に一定の法則があることに気づき始めると、それに伴い自然哲学として発展し、様々な変遷を経て徐々に、現在見られるような形での「易経」が出来上がっていきます。


■成り立ち

蓍筮が盛んに行われていたのは周の時代で、その頃には既に複数の種類の「易」があったそうです。「周易」以外のものは失われてしまい、現在の「易経」の元になったのはこの「周易」と呼ばれるもの。

もともとは、蓍筮の結果である「筮辞(ぜいじ)」を集めただけのものだった「周易」ですが、やがて占断の言葉「繋辞(けいじ)」がつけられ、筮辞に対する注釈や解釈理論が展開されるようになり、哲学的体系が出来上がっていきます。これらをまとめて編纂したものを「易伝」といい、これらが十種あるということで、「十翼」といいます。
※十翼:彖伝(上下)・象伝(上下)・繋辞伝(上下)・文言伝・説卦伝・序卦伝・雑卦伝

この周易の原型ができたのが、西周中期から春秋時代初め。そこから更に思想的に発展し、秦の始皇帝の厳しい思想統制のもとでも、易書は占いの書ということで焚書を免れ、「十翼」まで完成するのが、漢代初め頃とされてます。おおよそその頃に儒学の経典にも加えられ「易経」と呼ばれるようになり、経典としての権威づけがされるようになります。

その後、儒学が官学となると、易は民間にも広く普及し更に複雑になっていきます。それに伴い、元の自然哲学的思想を離れた神秘的傾向が強くなり、様々な迷信が生まれるようにもなりました。


■易の基本的な仕組み

まず初めに、万物の根源である「太極」があり、そこから「ー」と「- -」が発生します。 これを陰陽思想に当てはめると「ー」が陽で「- -」が陰。おそらく原始呪術の頃には、単に偶数、奇数というような区別であったと思われますが、現在「易」と言えば陰陽思想とセットになっています。そして「ー」「- -」それぞれに「ー」「- -」を重ねて4種類の組み合わせ(老陽、少陽、少陰、老陰)ができ、更にそれぞれをもう一度陰陽に分ける(ー、- -を重ねる)と出来上がるのが、8種類の「卦」いわゆる「八卦」と呼ばれるものです。この八卦で地上の様々な現象が表せるのですが、占いに使用する場合はより複雑な事象も占えるよう、この八卦(3爻)と八卦を合わせて、六四卦(6爻)とします。これはちょうど二進法の3ビットと6ビットに対応します。

簡単に言ってしまえばこれだけです。この六四卦と6つの各爻についての解釈や拡大解釈、解説、その注釈などがまとめられたものが易経ということです。








■易占

基本的に、占いの結果として出るのは64種類なので、64枚のカードでもいいような気もしますし、実際そのような商品も販売されているようです。同じ卜占であるタロットやその他のカードと同じように、直感的に使用することもできると思います。

特徴的なのは、「変爻」をとるという点で、陰陽思想の基本でもある”陰極まれば陽に転じ、その逆も然り”ということの表れとして、あらかじめ定められている決まりに則って「老陽」「老陰」となった爻は、それぞれ「ー」→「- -」、「- -」→「ー」に転じるというもの。そうすると当然異なる卦となるので、その卦も合わせて占断を行うという具合です。このあたりがカードだけだと十分ではない理由のひとつでもあると思います。ちなみに易のサイコロなんかだと、ちゃんと3つセットになっていて、変爻も取れるようになっているようです。

要するに六四卦と変爻をなんらかの方法で出せれば、占断は可能ということになりますが(コインetc.)、通常易占といえば「筮竹」が使用されます。古代、神意に依っていた時には、神聖な植物である蓍の茎を使用していましたが、利便性をとり筮竹に変わっていきました。そこには、神意に依ることからの脱却という意味もあったようです。

占いの方法としては、本筮法、中筮法、略筮法とありますが、本筮法は手数も多く時間がかかるため、現在よく使用されるのは中筮法であるとのこと。中筮法のやり方は、50本の筮竹を2つに分け、一方から1本とりわけ、もう一方から8本ずつ数えその余りと先程の1本を加えた本数を、決まりに従って陰陽を定め、それを6回繰り返しいずれかの卦を出します。その際、老陽、老陰となった爻が変爻という具合です。

その他いくつかのルールがありますが、重視するのは、象意を読むということで、上下の卦が何を表していて、どんな関係性を持って並んでいるかを見ていくことです


■易によって得られるもの

十翼のひとつ「繫辞伝」には、易とはどのようなものであるかや、易によって何が得られるのかということが書かれています。(「太極」「形而上」という言葉もこの繫辞伝の中にその記載があります。)後から付けられた解説ではありますが、易の本質についてや心得なども述べられています。

易という漢字が「変化」を表すように、易占というのはことごとく変化を示すものであって、いかにその変化に対応し大難を小難に、また”禍を転じて福となす”かということの実践であるとも言えます。研鑽を積んでゆけば、その中から読み取れることに限りはないのかもしれません。

ひとつ言えるのは、易というものの本質はとても素朴なものであって、自分や自分を取り巻く世界と向き合うためのツールであるということ。易というと、なんだか少し怪しい雰囲気だったり、神秘的な(?)印象がありましたが、それは後世、様々な創作や思惑が絡んでのことなのだと思います。

卦辞の内容などは、当然時代に合わない部分も多いのですが、象意を理解しておくと、日常の中で案外当てはまることがあったりして面白いかもしれません。選択肢が多すぎて迷ってしまう時に、特に好みやこだわりがなければ、陰陽の理論や気に入った卦の象意を参考にするのも便利かなと思います。

どんなことも、発端はとてもシンプル。そのエッセンスを抽出することが大切であるなと、改めて思います。