2021/10

インドの思想

ヨーガの流行と共に、インドの思想に関して目にすることも多くなってきました。仏教が生まれた地でもあり、宗教や精神世界を語る上では欠かせない存在にも思えます。修行といえばインド、聖者といえばインド、そんなイメージもあります。

と同時に、インドというとおそらく多くの人が混沌とした印象を抱くように、思想史においても、それを歴史的に秩序立てて研究することは難しい様です。なぜなら、インドには正確な年代を記した史料が少ないからで、それはまた、インドの思想は「非歴史的」であることに由来しているから、とのこと。

それこそがインド思想の特徴である様な気もしますが、何はともあれ、簡単にその流れ的なものを見てみることにします。

※主に、「インド思想史」早島鏡正/高崎直道/原実/前田専学 著 東京大学出版を参考にしました。


■略史年表


■インド思想史概略

インド思想史において、まず重要なのは「ヴェーダ」と呼ばれるものです。「知る」を意味する語根から作られた名詞で、「(宗教的)知識」という意味。転じて、その知識を収めた聖典のことを総称してヴェーダといいます。

インドの思想史を、ざっくりと、大まかに分けるとすると、このヴェーダを聖典として認める「正統バラモン思想」と反ヴェーダ的な「非正統派思想」を軸として、「イスラームなどの外来思想」、「タントリズムや密教的な思想」、「ネオ・ヒンドゥイズムとも言われる西洋的価値観を融合した思想」といった感じになります。

ヴェーダは、紀元前500年くらいまでにバラモン教の聖典として成立し、その後バラモン教が土着の民間信仰などを吸収してヒンドゥー教となっても、聖典として認められます。しかし、反ヴェーダ的な自由思想も多く現れ、その代表的なものが仏教やジャイナ教です。

中世にはイスラームや外来の思想、タントリズムなども加わり、密教の成立と共に仏教は衰退を見せます。近現代に入ると、西洋の影響を受けた思想が生まれたり、逆にそういった近代化の影響を一切受けずに伝統に従う神秘思想的な聖者も出てきます。


■主要学派+外来思想その他一覧

〈非正統派思想〉
・仏教
・ジャイナ教

〈正統バラモン思想〉
・サーンキヤ学派
・ヨーガ学派
・ニヤーヤ学派
・ヴァイシェーシカ学派
・ミーンマーンサー学派
・ヴェーダーンタ学派
(以上を六派哲学という)

〈イスラームと外来思想〉
・イスラーム正統派
・イスラーム神秘主義
・ヴァッラバの純粋不二一元論
・チャイタニヤ派の不可思議不一不異論
・ラーマーナンダの宗教改革
・カビールの宗教改革と宗教統一論

〈中世以降発展した諸派〉
・タントリズム
・シヴァ教諸派
・ビシュヌ教諸派
・密教

〈神秘思想〉
・ラーマクリシュナ
・ラマナ・マハルシ

〈ネオ・ヒンドゥイズム〉
・ヴィヴェーカーナンダ
・オーロビンド・ゴーシュ
・ガンディー
・タゴール

 

■インド思想と宗教

以上からもうかがえる様に、インドの思想(哲学)というのは、宗教と密接に結びついています。また、「哲学」と訳されているサンスクリット語の「ダルシャナ」は、「見る」を意味する語根から派生しています。真理を理解するにはまず、よく「見る」ことが必要であって、”無知とは正しく見ないこと” ”見ることと、知ることは同一”であるということ。

「philosophy」と訳されていても、「ダルシャナ」はどちらかというと宗教的な意味合いが強く、もっと言うと、西洋的な意味での「哲学」「宗教」どちらの概念をも超えたものであるようです。

もし宗教的な意味での真理を求めたいのなら、思想史として歴史的に考察することに意味はないように思えます。言葉にすることで、そこに生まれる解釈の相違が、際限なく枝分かれをしていくことを思えば、本末転倒なのでしょう。ですが、末端にいて源流へ還ろうとすれば、言葉はその道標になることはあるのかもしれません。